
2020年7月の豪雨から5年となり、氾濫で多くの被害をもたらした球磨川(奥)周辺で黙とうする人たち=4日午前、熊本県八代市
九州5県で災害関連死を含め計79人が犠牲になった2020年7月の豪雨から、4日で5年となった。球磨川や支流が氾濫し、特別養護老人ホーム「千寿園」の入所者14人を含む25人が死亡した熊本県球磨村では、午前8時半にサイレンが鳴り、住民らが黙とう。犠牲者に祈りをささげ「風化させない」と誓った。
球磨村の松谷浩一村長も黙とう。「災害の記憶と教訓を風化させることなく次の世代に語り継ぎ、災害前より魅力ある住みやすい村をつくっていく」と述べ、献花した。
いとこを亡くした村議の板崎寿一さん(75)は献花に訪れ「まだ5年か、という感じ。こんなことはもう絶対に起きてほしくない」と声を絞り出した。
隣接する八代市を流れる球磨川の河川敷では、氾濫が起きた早朝に合わせて、住民ら約30人が地元の風習にならい「安穏なれ」「一日も早い復興を」などと願いを書いた石を川に投げ入れた。行事を企画した道野紗喜子さん(46)は知人ら4人を水害で失ったといい、「将来の災害に備えるため、風化はさせたくない」と話した。
JR球泉洞駅近くでは「球磨川ラフティング協会」の協会員ら約10人が黙とうした。駅周辺では商店二つが雨で流された。昨年の「球磨川くだり」の利用者は、豪雨前の半分ほどに減ったという。協会代表理事の大石権太郎さん(55)は「5年という節目だが、復旧復興は厳しい状況だ」と話した。
20年7月の豪雨では、梅雨前線の停滞や線状降水帯の発生により、各地で川が氾濫。4日未明に大雨特別警報が発令された熊本県では67人が死亡、いまも2人が行方不明となっている。家屋7千棟超が被害を受け、6月30日時点で27戸49人が仮設住宅などに入居している。
球磨村の人口は豪雨前に比べ半減し約1600人になった。県が防災強化のため一転して容認した川辺川ダム建設計画には、一部住民の反発が残る。大部分が不通となったJR肥薩線は、人吉(熊本)―吉松(鹿児島)間の鉄道復旧のめどが立っていない。
【2020年7月の豪雨】梅雨前線の停滞や、線状降水帯の発生で猛烈な雨が降り、九州5県で計79人が死亡した。気象庁は4日未明、熊本県と鹿児島県の一部に大雨特別警報を発表。熊本県では球磨川や支流の氾濫により67人が亡くなり、2人が行方不明のまま。被災したJR肥薩線は、八代―人吉間は鉄道復旧する方針が決まった。豪雨を受け、県が一転して容認した川辺川ダムは、国が35年度中の完成を目指している。