沖縄全戦没者追悼式で平和宣言を読み上げる沖縄県の玉城デニー知事＝２３日午後、沖縄県糸満市の平和祈念公園

◆――　知事「教訓守る使命」　歴史修正に抵抗
　沖縄県は２３日、太平洋戦争末期の沖縄戦で亡くなった日米双方の２０万人超を悼む「慰霊の日」を迎えた。旧日本軍による組織的戦闘が終わった日とされ、今年で８０年。最後の激戦地だった糸満市摩文仁（まぶに）の平和祈念公園で、恒久平和を誓う沖縄全戦没者追悼式が営まれた。今年は政治家の「歴史修正」発言があり県民の抵抗感が高まる中、玉城デニー知事は平和宣言で「沖縄戦の実相と教訓を、世代を超えて守り続けることが私たちの使命だ」と述べた。石破茂首相も参列した。

　玉城氏は宣言の中で「米軍基地が集中し、米軍人らによる事件事故、辺野古新基地建設など過重な基地負担が続いている」と現状を訴えた。

　首相はあいさつで「先の大戦において住民を巻き込んだ地上戦が行われ、ひめゆり学徒隊など若者までもが犠牲となった」と指摘。「戦争の愚かさと悲惨さを正面から見つめ、平和で豊かな沖縄の実現に力を尽くすことは国家の重要な責務だ」と述べた。米軍基地の集中に対し「沖縄の負担軽減を目に見える形で実現する。私自身の強い決意だ」とした。

　世界は中東情勢の悪化やロシアのウクライナ侵攻などで緊迫する。政府は、台湾や尖閣諸島を巡る緊張を背景に南西諸島で防衛力を強化。県民の不安感は高まっている。

　追悼式は県などが主催し、参列者は正午に１分間黙とうした。豊見城市立伊良波小６年城間一歩輝さん（１１）は「平和の詩」を朗読。

　昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会の田中重光代表委員と、国連軍縮担当上級代表の中満泉事務次長も招かれた。

　平和宣言では、世界の安全保障環境が複雑さを増しているとして、長期的に「国際平和研究機構」の創設や沖縄の戦争遺跡群の世界遺産登録、核廃絶に取り組むとした。昨年言及した自衛隊増強への懸念には触れなかった。

　国籍や軍民を問わず、戦没者の名前を刻んだ公園内の石碑「平和の礎」は１９９５年の設置から今年で３０年。新たに３４２人が追加され、計２４万２５６７人となった。

　沖縄では住民を巻き込む苛烈な地上戦で、県民の４人に１人が命を落とした。１９７２年まで米統治下に置かれ、次々と基地を建設された。現在も国内の米軍専用施設の約７割が集中する。


　【沖縄戦】太平洋戦争末期の１９４５年３月２６日、米軍が沖縄県・慶良間諸島に上陸して始まった地上戦。４月１日には本島に上陸し、空襲や艦砲射撃など「鉄の暴風」と呼ばれる猛攻撃を加えた。旧日本軍の組織的戦闘は６月２３日に終わったとされるが、その後も局地戦は続いた。日米双方で２０万人以上が死亡し、うち一般住民は推計約９万４千人を占める。日本軍の強制や誘導による「集団自決」や日本兵による住民虐殺も起きた。



◆――　緊張緩和に一層の努力を
　【解説】沖縄では、太平洋戦争で酸鼻極まる地上戦が繰り広げられ、県民の４人に１人が死亡したとされる甚大な被害が生じた。８０年の時を経て、台湾や尖閣諸島を巡る情勢を背景に、政府は南西諸島の防衛力強化に腐心している。再び沖縄が戦場となることを懸念する県民の声は強い。政府は緊張緩和に向けた努力を一層強めるべきだ。

　「鉄の暴風」、日本軍による住民虐殺、集団自決―。沖縄では過酷な戦争体験がさまざまな形で継承されている。想像の及びがたい「地獄」の情景を次世代に伝え続けることが「基地なき平和の島」の実現を願う原動力となってきた。

　そんな沖縄は米中対立の最前線となっている。国土面積の約０・６％の県に在日米軍専用施設の７割が集中し、自衛隊の「南西シフト」も進む。過重な基地負担の軽減は見通せない状況だ。

　万が一有事となれば、沖縄の米軍や自衛隊の基地が標的とされることは避けられないだろう。先島諸島の住民ら約１２万人を九州・山口の各県に避難させる計画も浮上しているが、太平洋戦争時の「集団疎開」を思わせるとして反発は強い。

　ウクライナや中東ではいまも戦火が絶えず、多くの市民が殺傷されている。沖縄戦の過去が繰り返されないよう、政府は不戦の祈りに耳を傾け、平和外交を尽くす必要がある。