
ノーベル化学賞の受賞が決まり、記者会見で笑顔を見せる京都大の北川進氏=8日午後8時8分、京都市左京区
【ストックホルム共同】スウェーデンの王立科学アカデミーは8日、2025年のノーベル化学賞を北川進京都大特別教授(74)ら3氏に授与すると発表した。授賞理由は「金属有機構造体の開発」。構造体の内部に物質を出し入れできる「多孔性材料」に関する研究で、二酸化炭素(CO2)回収など環境分野への応用が期待されている。今回「人類が直面する大きな課題の解決につながる可能性がある」と評価された。
6日に生理学・医学賞に選ばれた坂口志文大阪大特任教授(74)に続く快挙となった。北川氏は、ストックホルムの発表会場からのインタビューに答え「長い間の研究が認められとてもうれしい」と喜びを語った。
共同受賞者は、オーストラリアのメルボルン大のリチャード・ロブソン名誉教授(88)と、米カリフォルニア大バークリー校のオマー・ヤギー教授(60)。
北川氏は近畿大助教授を務めていた1990年ごろ、金属イオンや有機化合物などの分子が自然と組み上がる「自己組織化」の手法を研究。内部に微小空間が規則正しく並んだジャングルジムのような多孔性材料を合成することに成功した。大気からCO2だけを選んで回収するなど「夢の吸着剤」としての応用が期待されている。
日本のノーベル賞受賞は個人では30人目、昨年平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)と合わせると31例目となった。化学賞は、19年に選ばれた吉野彰旭化成名誉フェロー(77)以来6年ぶり、9人目となる。
この分野では、藤田誠東大卓越教授(68)の業績も知られるが、今回は選ばれなかった。
授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。賞金1100万スウェーデンクローナ(約1億7千万円)を3氏で均等に分ける。
北川進氏(きたがわ・すすむ) 1951年7月4日、京都市生まれ。74年京都大工学部卒。79年京都大大学院博士課程修了、工学博士。近畿大理工学部助教授などを経て、92年東京都立大理学部教授。98年京都大教授。2013年京都大高等研究院物質―細胞統合システム拠点長、17年京都大特別教授。08年独フンボルト賞、13年江崎玲於奈賞、16年日本学士院賞、17年藤原賞など受賞。11年紫綬褒章。74歳。
【金属有機構造体】ナトリウムや鉄といった金属のイオンと、有機分子を混ぜてできる材料。一定の条件下で自然に組み上がってできる。内部に超微細な穴が多数ある「多孔性」という立体構造が特徴となる。不純物や化学物質を吸着するものとして活性炭があるが、狙った物質だけを吸着するのは難しかった。金属有機構造体は規則的に並ぶ多数の穴の大きさや性質を変化させることができ、特定の物質だけを取り込むことができる。表面積も大きいため、吸着量は活性炭を大きくしのぐ。(共同)
◆―― 化学賞の授賞理由
北川進京都大特別教授らに対するノーベル化学賞授賞理由は次の通り。
ガスや他の化学物質が通り抜けられる大きな空間を持つ「金属有機構造体」を開発した。構成要素を変えると、特定の物質の捕捉や貯蔵ができるよう設計できる。この手法で数万種類の異なる構造体が作られた。二酸化炭素を回収したり、砂漠の空気から水を採取したりできるほか、水中の有機フッ素化合物(PFAS)の分離など人類が直面する大きな課題の解決につながる可能性がある。
◆―― 化学界にとり心強い
丸岡啓二日本化学会会長の話 化学物質が環境問題など悪い話の原因として目立ち、化学に対する世間一般のイメージは良くはない。そんな中、日本人のノーベル化学賞の受賞決定は化学界にとって心強くうれしい。化学が面白く、どれだけ実社会に役立つものとして浸透しているか、知ってもらえる良い機会だ。若い研究者の博士課程への進学率が低下している上、研究費も不足するなど、日本の化学界を巡る環境は非常に厳しい。化学にも素晴らしい研究があるということを感じてほしい。