
会談後、共同記者発表するロシアのプーチン大統領(左)とトランプ米大統領=15日、米アラスカ州アンカレジ(ロイター=共同)
◆―― アラスカ基地で3時間弱
【アンカレジ共同】トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領は15日(日本時間16日)、米アラスカ州アンカレジの米軍基地で会談した。トランプ氏は会談後の共同記者発表で、最大の焦点だったロシアとウクライナの停戦合意には「至らなかった」と明らかにした。プーチン氏は「危機の根本的な原因を除去しなければならない」と従来の強硬な主張を繰り返した。
3年半続くロシアによるウクライナ侵攻開始後、米ロ首脳が対面で協議したのは初めて。ロシア通信によると、会談は2時間45分だった。停戦交渉が難航する中、具体的な成果を示せなかった。
トランプ氏は「多くの点で合意したが、大きな問題がいくつか残っている」と説明した。具体的な内容は明かさなかった。ウクライナのゼレンスキー大統領に電話で結果を伝えると述べた。プーチン氏は次回の米ロ首脳会談のモスクワ開催を提案した。
トランプ氏は会談後のFOXニュースとのインタビューで、停戦に向けた合意に応じるようゼレンスキー氏に促した。「ロシアと合意できるかどうかはゼレンスキー氏次第」とし「取引に応じるべきだ」と呼びかけた。
トランプ氏はエルメンドルフ・リチャードソン米軍基地でプーチン氏を出迎えた。両氏の対面会談は2019年6月に20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に合わせ大阪で実施して以来。
プーチン氏はこれまで、和平にはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟放棄の確約が必要などと強硬に訴えており、15日の会談でもこの立場を維持した。
トランプ氏はアラスカに向かう大統領専用機内で記者団に、プーチン氏とロシアとウクライナの「領土交換」も議論するものの、最終的な決定は「ウクライナに委ねる」との考えを示していた。トランプ氏によると、会談で領土交換についても議論したといい、ウクライナ側には、米ロ間で停戦条件が頭越しに決められることへの懸念が出ている。
首脳会談には、米側はルビオ国務長官、ウィットコフ中東担当特使、ロシア側はラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官が参加した。
【ロシアのウクライナ侵攻】ロシアは2022年2月24日、隣国ウクライナのゼレンスキー政権がロシア系住民を迫害していると主張して軍事侵攻を開始。首都キーウの早期攻略に失敗し、米欧からの支援を受けたウクライナ軍が反撃に転じたが、依然としてウクライナは国土の約2割を占領されている。24年秋には北朝鮮がロシアに兵士を派遣。ロシアとウクライナは22年の侵攻開始直後にベラルーシやトルコで直接交渉を行ったが、合意に至らなかった。25年1月に就任したトランプ米大統領は停戦への圧力を強めた。
◆―― 握手短く、険しい表情 トランプ氏、結果出せず
いつもの勝ち誇った雰囲気はなかった。15日、米アラスカ州アンカレジでロシアのプーチン大統領との首脳会談に臨んだトランプ米大統領。会談後の共同記者発表では目立った成果を打ち出せず、険しい表情で短く握手し、会場を後にした。
会談前、専用機から降り立ち握手をする2人には笑顔があった。赤ネクタイに紺のスーツ姿のトランプ氏が少し先に専用機から登場し、プーチン氏を拍手で出迎えた。日ごろからプーチン氏への親近感を隠さないトランプ氏。6年ぶりの「旧友」との再会を懐かしむかのように手を握った。
レッドカーペットを並んで歩き、登壇して写真撮影に応じると、報道陣から「市民を殺害するのをやめますか」と質問が飛んだが、プーチン氏は答えなかった。
2人の両脇には米軍のステルス戦闘機が並び、上空を戦略爆撃機と戦闘機の編隊がデモ飛行し、米軍の戦力を誇示した。
2人は黒塗りの米大統領専用車ビーストの後部座席に同乗。基地内の会談会場で「和平を追求」と書かれたボードを背に始まった会談は2時間45分続き、予定されていた昼食は省かれた。
記者発表では双方が会談を「生産的」だったと評価したが、記者の質問を受け付けず、12分で打ち切った。2人は間もなくアラスカを後にした。
◆―― 取引外交の限界露呈
【解説】トランプ米大統領が15日、ロシアのプーチン大統領と対面会談した。3年半続く侵攻でロシアとウクライナの立場の隔たりが大きい中、トランプ氏はトップ同士の直接対話で「ディール(取引)」に持ち込み、停戦に向けた突破口を切り開くことを狙った。しかし具体的成果は見えず、取引外交の限界を露呈した。
プーチン氏を交渉の席に着かせるため、トランプ氏はロシアを孤立化させる政策を転換。8月上旬に期限を設定していた厳しい対ロ制裁の発動も見送った。
会談場所に選んだのは米アラスカ州の米軍基地。国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状が出ているプーチン氏に10年ぶりの訪米だけでなく、機密性の高い軍事施設への立ち入りも許した。プーチン氏にとっては国際社会に米大統領と肩を並べる姿を誇示できた時点で「外交的勝利」(米メディア)になった。
侵攻によって戦後80年間築き上げてきた国際規範は揺らぎ、東アジアでは中国も台湾の武力統一を排除していない。トランプ氏が試みた取引は、世界の安全保障にも影響を及ぼす。