
東京・日本武道館で行われた、戦後80年の全国戦没者追悼式=15日午前11時55分
◆―― 参列遺族53%戦後生まれ
終戦から80年となった15日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京都千代田区の日本武道館で開かれ、遺族らが先の大戦で犠牲になった約310万人を悼み、平和を誓った。厚生労働省によると、事前に参列意向を示した遺族約3400人のうち、戦後生まれが53%と初めて半数を超えた。戦争を直接知る世代が減り、記憶継承の在り方が問われている。
石破茂首相は就任後初めての参列。式辞では、2013年以降の安倍晋三元首相らと同様にアジア諸国への加害責任には触れなかった。「進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、今改めて深く胸に刻まねばならない」と述べた。首相式辞に「反省」の文言が盛り込まれるのは13年ぶり。
正午の時報に合わせて全員が黙とう。天皇陛下は「戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ、将来にわたって平和と人々の幸せを希求し続けていくことを願う」とのお言葉を読み上げ、今年も「深い反省」に触れられた。
遺族代表で、陸軍兵長だった父を亡くした埼玉県の江田肇さん(82)は追悼の辞で、世界で続く紛争や対立に触れ「戦後の厳しさを体験しているわが国は、今こそ争いのむなしさ、復興の難しさ、平和の尊さを世界へ訴えることが求められている」と述べた。
最高齢の参列は北海道の長屋昭次さん(98)で、兄が中国で戦病死した。最年少は三重県の片山純矢さん(3)で、高祖父が米軍との戦闘で亡くなった。
厚労省によると、戦没者遺族のうち配偶者は、新型コロナウイルス禍だった21年に出席ゼロとなり、その後は1人や2人が続いていたが、今年、事前に参列の意向を示した人はいなかった。父母の参列は11年から途絶えている。
【戦没者】政府が主催する全国戦没者追悼式の対象となる戦没者は、1937年7月に始まった日中戦争以降で戦死した軍人・軍属約230万人と、空襲や広島、長崎の原爆投下、沖縄戦などで亡くなった民間人約80万人の計約310万人。このうち海外や沖縄、硫黄島(東京)で亡くなったのは約240万人とされる。
◆―― 反省と教訓、胸に刻む 石破首相の式辞全文
石破茂首相の式辞全文は次の通り。
天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、戦没者のご遺族、各界代表のご列席を得て、全国戦没者追悼式を、ここに挙行いたします。
先の大戦では、300万余の同胞の命が失われました。
祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦場に倒れた方々。広島と長崎での原爆投下、各都市への空襲ならびに艦砲射撃、沖縄での地上戦などにより犠牲となられた方々。戦後、遠い異郷の地で亡くなられた方々。今、全ての御霊の御前にあって、御霊安かれと、心より、お祈り申し上げます。
今日のわが国の平和と繁栄は、戦没者の皆さまの尊い命と、苦難の歴史の上に築かれたものであることを、私たちは片時たりとも忘れません。改めて、衷心より、敬意と感謝の念をささげます。
いまだ帰還を果たされていない多くのご遺骨のことも、決して忘れません。一日も早くふるさとにお迎えできるよう、全力を尽くします。
先の大戦から、80年がたちました。今では戦争を知らない世代が大多数となりました。戦争の惨禍を決して繰り返さない。進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、今改めて深く胸に刻まねばなりません。
同時にこの80年間、わが国は一貫して、平和国家として歩み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてまいりました。
歳月がいかに流れても、悲痛な戦争の記憶と不戦に対する決然たる誓いを世代を超えて継承し、恒久平和への行動を貫いてまいります。いまだ争いが絶えない世界にあって、分断を排して寛容をこし、今を生きる世代とこれからの世代のために、より良い未来を切り開きます。
結びに、いま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆さまにはご多幸を、心よりお祈りし、式辞といたします。