初公判に臨む桂田精一被告(代表法廷イラスト)
◆―― 運航会社、事故予見否定
知床半島沖で2022年4月、乗客乗員計26人が死亡、行方不明となった観光船沈没事故で、業務上過失致死罪に問われた運航会社社長桂田精一被告(62)は12日、釧路地裁(水越壮夫裁判長)の初公判で「(事故の)当日朝、船長から『海が荒れる前に引き返す』と伝えられ、出航を了解した」と述べた。弁護人は「沈没を予見することはできなかった」として起訴内容を否認し、無罪を主張した。
冒頭陳述で検察側は「強風・波浪注意報が発表され、船が沈没する恐れがあったことを予見できた」とし、注意義務違反が認められると主張。
弁護側は、被告は必要な気象・海象情報を収集したが「出航を中止しなければならない風速や波高を超えるものではなかった」と強調。「船の沈没はハッチの機能不全によって生じた」とし、法律に基づく検査で見過ごされ予見できなかったと訴えた。
桂田被告は罪状認否で、乗客乗員の家族に謝罪する一方「罪が成立するかどうか分からない」と語った。
事故は22年4月23日発生。知床遊覧船(斜里町)が運航する観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が半島西側の「カシュニの滝」沖で沈没した。第1管区海上保安本部(小樽)は24年9月、桂田被告を逮捕。釧路地検が行方不明の6人も含め26人全員を死亡させたとして翌10月に起訴した。
起訴状によると、悪天候が予想され、事故が発生する恐れがあるため、安全統括管理者・運航管理者として船長に出航や航行継続の中止を指示し、危険を未然に防ぐ注意義務があったのに怠り、漫然と航行させた過失によって船を沈没させ、乗客24人と乗員2人を死亡させたとしている。
地裁などによると、期日は全12回で、12月10日~26年2月18日の第2~7回公判は、検察側が申請した証人19人への尋問を実施。被告人質問は3月2~4日に行われ、4月16日に結審する。判決は6月17日。
事故を巡っては、乗客家族らが知床遊覧船と被告に計15億円超の損害賠償を求める訴訟を起こし、札幌地裁で係争中。
【知床・観光船沈没事故】知床半島沖で2022年4月23日、知床遊覧船が運航する観光船「KAZU Ⅰ」が沈没し、乗客乗員計26人が死亡、行方不明となった。運輸安全委員会は調査報告書で、ハッチに不具合があったほか、船に関する知識や経験のない社長の桂田精一被告が21年に安全統括管理者、運航管理者を兼務して以降、安全管理体制が存在しない状態になったと指摘。桂田被告は24年9月に逮捕され、翌10月、業務上過失致死罪で起訴された。
◆―― 主張変えず「誠実に説明」 家族に謝罪も、淡々と
「罪が成立するか分からない。この公判で誠実に説明します」。26人が犠牲となった知床の観光船沈没事故で、業務上過失致死罪に問われた運航会社社長の桂田精一被告(62)は12日、釧路地裁での初公判で、被害者への謝罪を口にしながらも、自らの責任については姿勢を変えなかった。白いマスクを終始外さず淡々とした姿に、家族らは厳しいまなざしを向けた。
午前10時過ぎに入廷した桂田被告。被害者の家族や裁判官に向かって頭を下げてから証言台に立ち、はっきりした口調で「桂田精一です」と述べた。起訴状が朗読されると、時折肩が上下するほかは身動きすることなく、静かに聞き入った。
「間違いないですか」と裁判長が尋ねると、数秒間沈黙した後に紙を取り出し「亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りします。家族の皆さまに心からおわびします」と読み上げた。
朝の冷え込みの中、地裁では開廷2時間前から13席の傍聴券を求め、80人が列を作った。「被告の言葉を聞きたい」。公判での真相究明を望む声が上がった。
釧路市の大学生浅沼竣さん(19)は「無罪主張をするようだが、たくさんの人が犠牲になった事件でそうした主張をするのは不思議。真相が知りたい」。知床で観光船に乗ったことがあるという同市の無職松沢理さん(60)は「ずさんな安全管理体制だったと感じた。社長が安全管理や遺族に対してどう考えているか聞きたい」と話した。




























































