
記者会見する石破首相。退陣する意向を表明した=7日午後6時、首相官邸
◆―― 自民、後任選出急ぐ
石破茂首相(自民党総裁)は7日、官邸で緊急記者会見を開き、退陣する意向を表明した。7月の参院選大敗で求心力を失い、自民内では閣内を含む党所属国会議員や地方組織に総裁選前倒し要求が拡大。続投を断念した。自民は総裁選実施へ準備を本格化させ、後任選出を急ぐ。辞任判断のタイミングについて「日米関税交渉に一つの区切りがついた」と説明した。首相は後継の就任をもって辞任する。昨年10月に発足した石破内閣は約1年で幕を閉じる。
首相は、8日に予定されていた総裁選前倒しの是非を決める意思確認に関し「党内に決定的な分断を生みかねない」と指摘し「身を引く苦渋の決断をした」と語った。6日夜の菅義偉副総裁、小泉進次郎農相との会談が判断に影響を与えたと示唆。両氏は首相に対し、意思確認前の自発的辞任を促していた。
首相は次期総裁選には立候補しないと明言した。参院選大敗について「責任は総裁たる私にある」と強調した。
総裁選前倒しを巡り、首相経験者の麻生太郎最高顧問や鈴木馨祐法相が賛成する考えを公表。閣僚経験者や副大臣、政務官からも要求が続出した。臨時総裁選実施に必要な過半数に達するとの見方が出ていた。
追い込まれた首相は前倒し要求に対抗する形で、衆院解散を一時検討。7日の会見で「いろいろな考えがあった」と否定しなかった。8日の意思確認は首相の辞任意向を受け中止となった。
自民は、8日から総裁選のスケジュールや形式の検討を始める。「ポスト石破」候補には、昨年の総裁選で首相と決選投票を争った高市早苗前経済安全保障担当相や小泉進次郎農相、小林鷹之元経済安保相、林芳正官房長官らの名前が取り沙汰されている。
首相は参院選大敗直後「政治空白をつくるべきではない」と続投を表明。7月28日の両院議員懇談会と8月8日の両院議員総会で、日米関税交渉合意の実行を理由に続投方針を堅持した。
石破政権は昨年10月の衆院選で敗北し、衆院で少数与党となった。6月の東京都議選、参院選でも大敗し、首相の責任を問う声が高まった。
石破 茂氏(いしば・しげる) 慶大卒。銀行員を経て86年に衆院初当選。93年に自民党を離党し97年に復党した。防衛相、農相、党幹事長、地方創生担当相などを歴任し、24年10月に首相就任。68歳。鳥取1区、当選13回。
【自民党総裁選】自民党の最高責任者である総裁を決める選挙。原則、国会議員票と党員・党友による地方票で争われ、過半数を得た候補が当選する。総裁の任期は3年。2020年8月に安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣表明したケースのように、任期中でも緊急の場合は両院議員総会で後任を選出できる。02年の党則改正で、任期満了前でも国会議員と都道府県連代表者の総数の過半数が要求すれば、臨時総裁選を行う規定も加わった。石破茂首相の総裁任期は27年9月末。
◆―― 続投執着、遅過ぎた判断
【解説】石破茂首相が退陣意向を表明した。参院選大敗後も続投に執着し続けたが、自民党総裁選の前倒し論拡大で追い込まれた。判断が遅過ぎたとの批判は免れない。報道各社の世論調査で内閣支持率の上昇傾向を背景に、対抗手段として衆院解散を一時検討。だが大義は見当たらず、断念した。日本が内外で多くの難題に直面する中、政治空白を生んだ責任は重い。
昨年10月に就任し、在任期間が間もなく1年となる首相は7日の記者会見で「まだやり遂げなければならないことがあるとの思いもある中、身を引くという苦渋の決断をした」と語った。
ただ総裁選で掲げた日米地位協定改定などの持論は封印、「石破らしさ」は最後まで発揮できなかった。少数与党下で高額療養費制度や現金給付案など重要政策は二転三転した。指導力が欠如していたと言わざるを得ない。
参院選後、首相は山積する課題を挙げ、政治空白をつくるべきでないと続投意向を訴え続けた。日米関税交渉では米大統領令の署名にこぎ着け、合意の道筋を付けたと言える。だが総裁選前倒しの是非を巡る8日の意思確認手続きを控え、刷新を求める党内の声を抑えられなかった。
「ポスト石破」を選ぶ自民総裁選の号砲が鳴る。誰が次期総裁の座を射止めても、衆参両院で少数与党の難局は続く。自民議員は党内の争いに明け暮れている時間はない。政治の安定に向けた責任を自覚すべきだ。