
21日、イラン核施設への攻撃について、国民に向けて演説するトランプ米大統領(手前)=ワシントンのホワイトハウス(ロイター=共同)
◆―― 本土に初、特殊貫通弾
【ワシントン、テヘラン共同】米軍はイランで中部フォルドゥなど3カ所の核施設を現地時間22日未明(日本時間午前)、攻撃した。トランプ米大統領は主要施設が「完全に破壊された」と述べた。米メディアによると米軍がイラン本土を直接攻撃したのは初めてで、特殊貫通弾(バンカーバスター)で地下施設を攻撃した。イランは報復の構え。周辺地域の米軍基地を狙い戦火が拡大する恐れがあり、中東は重大な岐路に立った。原油を中東に依存する日本経済に影響が及ぶ可能性もある。
トランプ政権はイランの核兵器保有を阻止するとしてきた。攻撃したのは他に中部ナタンズとイスファハンの核施設。地元当局はフォルドゥのウラン濃縮施設が一部損壊したと明かした。イラン当局は、放射性物質による汚染は確認されず周辺住民に危険はないとした。アラグチ外相は攻撃を国際法違反と非難した。
トランプ氏は米東部時間21日夜(同22日午前)、ホワイトハウスで演説。イスラエルのネタニヤフ首相と緊密に連携したとし「イスラエルに対する脅威を取り除くため前進した」と述べた。攻撃は「成功だった」とし、イランが中東の平和構築に協力しなければ「将来の攻撃はさらに強大なものになる」と警告した。
CNNテレビによると、米軍は攻撃にB2ステルス戦略爆撃機7機を投入。6機がフォルドゥの地下施設をバンカーバスター12発で攻撃した。ナタンズでも2発使った。
トランプ氏は攻撃後にネタニヤフ氏と電話で協議。ネタニヤフ氏は動画声明を出し「歴史を変える」と攻撃を称賛した。
一方、米メディアによると米政府は21日にイランと接触し、今回の攻撃が計画の全てで、イランの体制転換を目指す意図はないと伝えた。
イラン軍事筋は共同通信に「米国はイランとの戦争を始めた」と述べ報復攻撃の姿勢を示した。国営テレビは中東の全ての米市民と米軍関係者が正当な標的だと伝えた。
イランは国連安全保障理事会の緊急会合開催を要請。グテレス国連事務総長は米軍の攻撃について「国際社会の平和と安全への直接の脅威だ」とし、外交解決を訴えた。
トランプ氏は19日、米軍がイラン攻撃に踏み切るかどうかを2週間以内に決めると表明していた。イスラエルとイランは22日も交戦を続けた。
◆―― 米の攻撃「素晴らしい」 イスラエル首相が謝意
【エルサレム共同】イスラエルのネタニヤフ首相は22日、英語の動画声明を公開し、米国によるイラン核施設への攻撃を「素晴らしい」と称賛した。トランプ米大統領について「思い切った決断だ。歴史を変える」と述べ、謝意を示した。
イスラエルメディアによると、カッツ国防相は自国軍によるイランへの攻撃継続に関し明言を避けた。ネタニヤフ氏は、カッツ氏ら主要閣僚らと21日夜から会合を開き、米国の攻撃を注視した。
ネタニヤフ氏は声明で、米国の攻撃が「中東やその他の地域の平和を導き、歴史の転換点をつくることになる」と強調した。その後、イスラエル国民に向け、ヘブライ語で動画声明を公開。「イランの核施設を破壊するとの約束は果たした。前例のない成果だ」と誇示し、米国と全面的に連携したと説明した。
◆―― 「核不拡散体制揺るがす」 米軍縮専門家らが攻撃批判
【ワシントン共同】米シンクタンク、軍備管理協会の核軍縮専門家らは21日の声明で、米軍によるイラン核施設攻撃について「世界の核不拡散体制を揺るがす」と批判した。イランの核開発計画を一時的に後退させるものの、長期的には核兵器保有が抑止力として必要だと認識させ、実行のリスクを高めると訴えた。
軍事攻撃だけでは「核に関するイランの広範囲な知見を破壊することはできない」と指摘。イランが核開発を拡大する決意を固め、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を検討する可能性を高めることになりかねないとの見方を示した。
イラン核問題が解決しなかった場合、核不拡散体制への信頼性が低下し、核保有国による攻撃を防ぐために核武装を追求する国家が増加する懸念があると強調。イランとの外交交渉を通じた解決の展望は暗くなったが、交渉は「長期的に核拡散を止める最良の道筋であり続ける」と述べた。
軍備管理協会は第1次トランプ政権が2018年にイラン核合意を離脱した際にも「誤った外交政策」だと指弾した。今回の声明はダリル・キンボール会長らが出した。