
国会で内閣不信任決議案を提出しないと正式表明する立憲民主党の野田代表。左は首相官邸で取材に応じる石破首相。今国会の衆院解散を見送る方針を固めた=19日午後
◆―― 中東・関税、政治空白回避
石破茂首相は、今国会の衆院解散を見送る方針を固めた。立憲民主党の野田佳彦代表が石破内閣不信任決議案を提出しないと正式表明したことを踏まえた。7月の参院選に合わせた衆参同日選は実施されない。首相は、中東情勢の悪化や日米関税交渉の継続を受け、解散による政治空白を回避した。自民党幹部が19日明らかにした。参院選の日程は7月3日公示、20日投開票となる。今国会は22日に会期末を迎え、与野党は事実上の選挙戦に入る。
参院選は、物価高対策や自民派閥裏金事件をきっかけとした政治改革が主な争点となる。イスラエルとイランの交戦を受けたエネルギーの安定供給確保や、関税交渉を巡っても舌戦が展開されそうだ。政府は23日の持ち回り閣議で参院選日程を決定する。
首相は立民が不信任案を提出すれば、衆院を解散する考えを周囲に伝えていた。一方、野田氏は、衆院解散に直結する不信任案提出の是非を慎重に検討してきた。19日に国会内で記者会見し、中東情勢や関税交渉に言及。「大事な外交努力をしなければいけない。危機管理上の問題もある時に政治空白をつくるべきではない」と説明した。
提出すれば同日選の可能性があるとして「勝つか負けるか分からない。衆院で少数与党に追い込んでいる優位性を捨てることはリスクがある」と述べた。参院選について「野党の議席を最大化し、与党の過半数割れを目指す」と強調した。
会見に先立ち、立民は臨時執行役員会を国会内で開催し、不信任案を提出しないと決めた。野田氏は、日本維新の会の前原誠司共同代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の田村智子委員長と個別に会談し、不信任案提出を見送る意向を伝達した。
首相は野田氏の正式表明に先立ち、公明、立民、維新、国民民主、れいわ新選組、共産各党との党首会談を国会内で開いた。緊迫化する中東情勢に伴うガソリン価格高騰に備え、26日から予防的な激変緩和措置を取ると表明。関税交渉を巡るトランプ米大統領とのカナダでの会談結果を報告し、協力を求めた。
【内閣不信任決議案】現行の内閣に政権運営を任せられないとの意思を示すため、衆院に提出される決議案。提出者に加え、賛成者50人が必要で、現在、単独で提出できる野党は立憲民主党のみ。出席議員の過半数の賛成で可決する。憲法69条は可決された場合、10日以内に衆院が解散されない限り、内閣は総辞職しなければならないと規定。現行憲法下での可決は1948年と53年の吉田内閣、80年の大平内閣、93年の宮沢内閣の4例しかなく、いずれも解散・総選挙となった。
◆―― 「拍子抜け」野党に不満 自民安堵、参院選へ注力
立憲民主党の野田佳彦代表が内閣不信任決議案を提出しないと19日に明らかにしたのを受け、野党からは「拍子抜けだ。もっと戦うべきだ」(国民民主党の玉木雄一郎代表)といった不満が上がった。自民党内では「これで参院選に注力できる」と安堵の声が漏れた。
玉木氏は、20日にガソリン税の暫定税率廃止法案の実質審議入りを控える中での見送り表明に「法案を通すためにも、迫力を持って迫っていくべきではないか」と強調した。れいわ新選組の高井崇志幹事長は「不信任案を提出し、政権交代を狙うのが野党のあるべき姿だ。本当に戦う覚悟がない」と批判した。
一方、自民幹部は「提出できなかったというのは、野党にとって代償が大きい」と述べた。中堅議員は「提出されても、石破茂首相は実際に衆院を解散するつもりはなかったのではないか。勝利の方策を描けていないはずだ」と語った。