徳島市で行われた犬飼農村舞台の夜公演

　歌舞伎や人形浄瑠璃を催す「農村舞台」の一つ、徳島市の犬飼農村舞台で２９年ぶりとなる夜の公演が行われた。現在は年１回の昼のみで、関係者が長年夜の開催を夢見ていた。当日は光に照らされた舞台が暗闇に浮かぶ幻想的な雰囲気の中、観客約３００人が伝統芸能を楽しんだ。

　同舞台保存会の音井威重会長（６５）によると、同舞台は１８７３年に徳島市の神社に設けられた。娯楽が少ない時代に多くの人に親しまれたが、１９６０年ごろからのテレビの普及に伴い公演は終了。７３年に保存会が結成されたことで復活したが、少し形が変わり、かつて夜も行われていた公演は昼のみとなった。

　だが、９５年のテレビ番組の企画で夜公演が一度だけ復活した。観覧した人は「昼の数倍きれい」と話していたといい、保存会メンバーらも「再度」と長年思っていた。昨年、関係者の一人が声を上げ、費用面の都合も付いたことなどから、今回の夜公演が実現した。

　本番当日は大雨が降ったが、開演直前にやんで星も見える天気に。木々に囲まれ唯一の光に照らされた舞台では、まるで生きているかのように動く人形浄瑠璃など２演目が上演された。初めて夜公演を観覧した音井会長は「ものすごくきれいだった」と感嘆した。

　毎年やってほしいという声もあったが、資金調達や準備などの面から難しく、来年以降の計画は現在ないという。まさに一夜限りの復活劇となった。